山形地方裁判所 昭和42年(行ウ)3号 判決 1971年12月13日
山形県東置賜郡川西町大字小松二八四番地
原告
高橋四郎
同所
原告
高橋と志
米沢市門東町一丁目一番九号
被告
米沢税務署長
本田敏雄
右指定代理人
宮村素之
同
佐々木繁士
同
伊藤洋逸
同
斎藤啓
主文
一、原告らの請求をいずれも棄却する。
二、訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一、当事者の求める裁判
一、原告らにおいて
(一) 被告が昭和四一年二月二二日になした
1. 原告高橋四郎に対する昭和三七年度分贈与税の課税価格を九二万円、納付すべき贈与税額を一四万一、〇〇〇円とする決定および無申告加算税を一万四、一〇〇円とする賦課決定
2. 原告高橋と志に対する同年度分贈与税の課税価格を一九二万円、納付すべき贈与税額を四八万八、〇〇〇円とする決定および無申告加算税を四万八、八〇〇円とする賦課決定をいずれも取消す。
(二) 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決。
二、被告において
主文同旨の判決。
第二当事者の事実上の主張
一、請求原因
(一) 被告は昭和四一年二月二二日
1. 原告高橋四郎に対し、昭和三七年度分贈与税の課税価格を九二万円、納付すべき贈与税額を一四万一、〇〇〇円とする決定、および無申告加算税を一万四、一〇〇円とする賦課決定。
2. 原告高橋と志(以下とし、と表示する)に対し同年度分贈与税の課税価格を一九二万円、贈与税額を四八万八、〇〇〇円とする決定および無申告加算税四万八、八〇〇円とする賦課決定。
をそれぞれなした。
(二) 原告らは昭和四一年三月二三日被告に対し異議申立をなしたところ、これに対し被告は同年六月一三日棄却決定をなしたので、原告らは同年七月一二日仙台国税局長に対し審査請求をなしたが、これに対し同局長は、昭和四二年一月三〇日請求棄却の裁決をなし、その裁決書謄本はその頃原告らに送達された。
(三) しかし原告らは昭和三七年度において、贈与により財産を取得したことがないから、被告がなした右(一)の決定および賦課決定はいずれも違法である。
(四) よつて右(一)の決定および賦課決定の取消を求める。
二、答弁
請求原因に対し
(一) その(一)の事実は認。
(二) その(二)の事実は認。
三、抗弁
(一) 訴外高仙酒造株式会社(所在地山形県東置賜郡川西町大字小松二八四番地・以下訴外会社という)の九、〇〇〇株(金額九〇〇万円)の新株発行に当り、昭和三七年一二月一四日原告としては、一、九二〇株(金額一九二万円)、原告四郎は九二〇株(金額九二万円)をそれぞれ引受け、その払込みをなした。
(二) 右(一)の各払込金は原告らがそれぞれ訴外高橋仙次郎(以下訴外仙次郎という)から贈与を受けたものである。
四、抗弁に対する答弁
抗弁に対し
(一) その(一)は認。
(二) その(二)は否認。ちなみに、右(一)の株式払込金はいずれも原告らがそれぞれ訴外仙次郎から借受けたものであり、後日次の如き経緯により原告ら各所有株式を売却した代金をもつて返済した。
1. 原告四郎において
(1) 原告四郎は昭和三四年五月訴外仙次郎に対し一〇〇万円を交付して株式の売買を委任した。
(2) 訴外仙次郎が昭和三八年三月二二日山一証券株式会社上野支店において
イ 単価九四円で売却した島貫武広名義日立製作所株式一万九、〇〇〇株のうち五、〇〇〇株(代金四七万円)
ロ 単価九五円で売却した右島貫名義同社株式一万七、〇〇〇株のうち五、〇〇〇株(代金四七万五、〇〇〇円)は、右(1)により原告四郎の所有である。
(3) 従つて、訴外仙次郎が受領した右(2)の売却代金合計九四万五、〇〇〇円は同人が原告四郎に返還すべきものである。
(4) 右(2)と同日訴外仙次郎は右貸付金九二万円と右(3)の預り金合計九四万五、〇〇〇円とを対当額で相殺した。
2. 原告としにおいて
(1) 原告としは十数年前から訴外仙次郎に対し自己の所持金を交付して株式の売買を委託してきた。
(2) 訴外仙次郎が
イ 昭和三九年一〇月二七日から同年一一月九日までの間に五回にわたり単価七二〇円で売却した原告とし名義山形交通株式八九二株(代金六四万二、二四〇円)
ロ 同年一一月五日から同年一二月一日までの間に四回にわたり単価六二円で売却した右仙次郎名義山形銀行株式八、八〇〇株(代金五四万五、六〇〇円)
ハ 昭和三八年三月二二日単価九四円で売却した訴外高橋揚子名義日立製作所株式六、〇〇〇株(代金五六万四、〇〇〇円)
ニ 昭和三九年三月二五日及び同年六月六日の二回にわたり単価五六〇円で売却した訴外仙次郎名義東北電力株式三六〇株(代金二〇万一、六〇〇円)
は、いずれも原告としの所有である。
(3) 従つて、訴外仙次郎が受領した右(2)の売却代金合計一九五万三、四四〇円は、同人が原告としに返還すべきものである。
(4) 訴外仙次郎と原告としの間に成立した合意により、同訴外人の同原告に対する右貸付金一九二万円と右(3)の預り金合計一九五万三、四四〇円とを右の売却日に順次対当額で相殺した。
第三証拠
一、原告らにおいて
(一) 甲第一ないし七号証を提出
(二) 証人高橋仙次郎の証言、原告高橋四郎(第一、二回)、同高橋とし(第一、二回)の各本人尋問の結果を援用。
(三) 乙号証の成立につき
1. その第五号証の一ないし三、第六号証の一四、第七号証の一、二、第八ないし一一号証、第一四号証の一、二、第第二一号証、第二五号証、第二七号証の一、二、第二八ないし三一号証の成立は認。
2. その第六号証の一ないし三、同四の一、二、同五ないし七、同一一ないし一三、同一六、同一七の二、同一八、一九は、そのうち、米沢税務署長作成部分は認、その余の部分は不知。
3. その第一号証、第二号証の一ないし三、第三号証の一、二、第四号証、第六号証の八ないし一〇、同一五、同一七の一、第一二号証の一、二、第一三号証の一、二、第一五号証の一、二、第一六号証、第一七号証の一、二、第一八ないし二〇号証、第二二、二三号証、第二四号証の一ないし三、第二六号証の一ないし四の成立は不知。
二、被告において
(一) 乙第一号証、第二号証の一ないし三、第三号証の一、二、第四号証、第五号証の一ないし三、第六号証の一ないし三、同四の一、二、同五ないし一六、同一七の一、二、同一八、一九、第七号証の一、二、第八ないし一一号証、第一二号証の一、二、第一三号証の一、二、第一四号証の一、二、第一五号証の一、二、第一六号証、第一七号証の一、二、第一八ないし二三号証、第二四号証の一ないし三、第二五号証、第二六号証の一ないし四、第二七号証の一、二、第二八ないし三一号証を提出。
(二) 証人木村義夫の証言を援用
(三) 甲号証の成立につき
1. その第三ないし五号証はいずれも認。
2. その余はいずれも不知。
理由
第一 請求原因(一)、(二)の事実は、いずれも当事者間に争いがない。
第二抗弁につき
一、抗弁(一)の事実は当事者間に争いがない。
二、右払込金につき贈与契約の存否
(一) 証人木村義夫の証言および同証言により真正に成立したと認める乙第一号証、第二号証の一ないし三、第三号証の一、二、第四号証、第一二号証の一、第一九、二〇号証、第二四号証の一、二、証人高橋仙次郎の証言、原告高橋四郎(第一回)、同高橋とし(第一回)各本人尋問の結果によれば、次の事実を認めることができる。
1. 昭和三七年当時訴外仙次郎は、訴外会社の代表取締役であり、原告としは同訴外人の妻、原告四郎は同訴外人の子であり、いずれも同一家団を形成し、同訴外人が同家団の財産一切を管理していた。
2. 訴外仙次郎は、同年一二月一四日株式会社両羽銀行(現株式会社山形銀行)小松支店から借主同訴外人名義で訴外会社増資払込資金の名目をもつて九〇〇万円の手形借入れをした。
3. 訴外仙次郎は同日右2の借入金九〇〇万円を、訴外会社の新株を九二〇株(金額九二〇万円)引受けた原告四郎、一、九二〇株(金額一九二万円)引受けた原告としを含む全引受人七名合計株式九、〇〇〇株(金額九〇〇万円)の新株払込金として右2の銀行における訴外会社の新株払込金口座に預け入れ、その払込をした。
4. 訴外仙次郎は、右2の借入金九〇〇万円を、
(1) 昭和三七年一二月一五日同訴外人の訴外会社に対する貸付金及び仮払金について同会社から返済を受けた六〇〇万円
(2) 昭和三八年二月二日訴外仙次郎所有の東京都文京区駒込林町五一番地の一三宅地一七七坪九合八勺(五八八・三九平方米)を訴外会社に売却して得た代金のうちの三〇〇万円
をもつて、それぞれ右銀行に返済した。
(二) 右認定に反する証拠はない。
(三) 右(一)認定の事実によれば、原告とし、同四郎の訴外会社に対する新株払込は、訴外仙次郎の出捐した金員によつてなされたものと認めるのが相当である。
(四) 一般に、妻子等自己と極めて親密な身分関係にある者に対し財産的利益を付与した場合、それは、後にその利益と同等の価値が現実に返還されるか又は将来返還されることが極めて確実である等(若くは、名義上の利益付与等)特別の事情が存在しない限り贈与であると認めるのが相当である。
(五) 右特別の事情の存否につき
1. 原告四郎につき
(1) 前記乙第一二号証の一、証人木村義夫の証言、原告四郎本人尋問(第一、二回)の結果によれば、次の事実を認めることができる。
イ 本件訴訟に至る前の行政不服審査手続において、原告四郎は、同原告が訴外仙次郎に対し、昭和三四年五月金一〇〇万円を交付して株式売買を委任した旨を主張せず、かつ、右主張を裏付ける事実を記載した書面(甲第一号証の念書)を提出せず、同書証の存在についても言及しなかつた。
ロ 原告四郎が取得したと主張する一万株を含む島貫武広名義日立製作所株式三万六、〇〇〇株はすべて訴外仙次郎がその管理を行ないこれに対する配当金は全部同仙次郎の株式会社三井銀行東京支店普通預金口座に払込まれていた。
ハ 昭和三八年三月二九日訴外仙次郎は島貫武広名義日立製作所株式三万六、〇〇〇株を証券会社を通じて売却した。
(2) 右イ、ロを総合すると、原告四郎が主張する株式一万株を含む右株式三万六、〇〇〇株はすべて訴外仙次郎の所有に属すると認めるのが相当であるから、右ハは、訴外仙次郎が自己所有株式を売却した事実を示すにすぎないことが明らかである。
(3) 証人高橋仙次郎の証言、原告四郎(第一、二回)、同とし(第一、二回)の各本人尋問の結果中、右(2)認定に反する部分は信用することができず、他に右株式一万株が原告四郎の所有に属することを認識するに足る資料は存しない。
(4) 右株式一万株が原告四郎の所有を認められない以上、原告四郎の右株式の売却代金により訴外仙次郎からの借入金を返済したという主張(事実欄第二の四(二)1)は採用することはできず、また本件全証拠によるも右借入金を将来返済することが極めて確実であるという事実も認められない。
(5) 従つて、原告四郎につき右(四)の特別の事情は存在しない。
2. 原告としにつき
(1) 弁論の全趣旨により真正に成立したと認める甲第二号証、成立につき当事者間に争いのない甲第三ないし五号証、乙第八、二一号証、証人木村義夫の証言、同証言により真正に成立したと認める乙第一五号証の一、証人高橋仙次郎の証言、原告とし本人尋問の結果(第一、二回)弁論の全趣旨によれば後記イ、ロ、ハ(イ)の各事実を認めることができ、後記ハ(ロ)(ハ)の各事実は記録上明らかである。
イ 原告としは訴外仙次郎と昭和五年一一月婚姻し、昭和六年頃から所持金(金額は不明)を右仙次郎に交付して株式の売買による利殖を委託してきた。
ロ 訴外仙次郎は証券会社を通して、次の如き株式の売却をなした。
(イ) 原告とし名義山形交通株式につき、昭和三九年一〇月二七日五〇〇株、同年一一月九日三九七株合計八九七株
(ロ) 高橋仙次郎名義山形銀行株式につき、昭和三九年一一月五日六〇〇株、同年一一月一一日一〇〇株、同年一一月二〇日八、〇〇〇株、同年一二月一日一〇〇株合計八、八〇〇株
(ハ) 高橋揚子名義日立製作所株式につき、昭和三八年三月一一日六、〇〇〇株
(ニ) 高橋仙次郎名義東北電力株式につき、昭和三九年三月二五日三〇〇株、同年六月五日六〇株合計三六〇株
ハ 原告としの借入金の返済に関する供述
(イ) 原告とし申立の本件贈与税に関する審査請求において、原告四郎は仙台国税局協議団本部との協議につき右としを代理していたが、右四郎は昭和四一年九月一四日付で同協議団本部長に対し、原告とし名義山形交通株式九七〇株(金額七五万円)、訴外仙次郎名義山形銀行株式八、八〇〇株(金額五九万円)、同人名義東北電力株式一、一〇〇株(金額五八万三、〇〇〇円)はいずれも原告としの所有であり、同人は右株式を売却した代金合計一九二万三、〇〇〇円をもつて右仙次郎からの借入金を完済した旨記載の供述書を提出した。
(ロ) 原告としは、昭和四三年九月一一日(本件第九回口頭弁論期日)施行の本人尋問において、同人名義山形交通株式八九二株(金額約六六万円)、訴外仙次郎名義山形銀行株式八、八〇〇株(金額五四万五、六〇〇円)、同人名義東北電力株式三六〇株(金額約二〇万円)は、いずれも原告としの所有であり、同人は右株式を売却した代金合計約一四〇万円及び昭和三九年一一月頃、昭和四〇年五月頃、同年秋頃の三回にわたつて交付した合計約五〇万円の現金により訴外仙次郎からの借入金を完済した旨供述した。
(ハ) 原告としは、昭和四四年一〇月一三日(本件第一三回口頭弁論期日)施行の本人尋問において、山形交通、山形銀行、東北電力各株式の売却方に関しては(ロ)の供述を維持したが、約五〇万円の現金の交付方に関しては誤りであるとしてこれを訂正し、右各株式の売却代金と同人所有の高橋揚子名義日立製作所株式六、〇〇〇株(同人は金額につき供述しなかつたが証人高橋仙次郎の証言によれば単価が九五円であるから五七万円となる)を売却した代金により訴外仙次郎からの借入金を完済した旨供述した。
(2) 右(1)認定に反する証拠はない(但し、(1)ハ(ロ)、(ハ)については除く)。
(3) 右(1)認定の事実に基づき考察する。
イ 前提事項
(イ) 相当程度高額の債務(本件では一九二万円)の返済方法につき債務者の供述が変転するということは通例ありえないことであるにかかわらず、原告としのこの点に関する供述は(1)ハの如く区々にわたつている上、同人の供述自体弁済額が債務額に一致していない。
(ロ) 現金を交付して株式売買による利殖を委託した者に対し、委託株式によつて借入金を返済する場合は右株式自体による代物弁済による方法が右株式を一旦現金化して支払う方法よりも手数が省け、かつ、取扱証券会社に対する委託手数料の失費を免れる点において経済的合理性に合致する。
(ハ) 株式を売却した場合売主が取得しうる金額は売却代金より取扱証券会社に対する株式委託手数料及び有価証券取引税を控除した額であるにもかかわらず、原告としは(1)ハの如く売却代金全額をもつて借入金の返済に充てた旨供述している。
ロ 判断
右イによると、右(1)ロの株式売却は、仮に右株式が原告としの所有に属するとしても、訴外仙次郎の株式運用の一過程にすぎず、原告としの借入金の返済とは関連性がないと解するのが相当である。
(4) 証人高橋仙次郎の証言、原告とし本人尋問の結果(第一、二回)中(3)ロに反する部分は信用することができず他に右(3)ロを覆えすに足る資料はない。
(5) 右(3)ロによれば、原告としの株式の売却代金により借入金を返済したという主張(事実欄第二の四(二)2)はこれを採用することができず、また本件全証拠によるも原告としが右借入金を将来返済することが確実であるという事実も認められない。
(6) 右(5)によれば、原告としにつき、右(四)の特別の事情は存在しない。
(六) 従つて訴外仙次郎から原告四郎が九二万円、同としが一九二万円の各贈与を受けた旨の抗弁は理由がある。
第三結論
よつて、原告らの各請求はいずれも失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 伊藤俊光 裁判官 三浦宏一 裁判長裁判官藤巻昇は退官につき署名押印することができない。裁判官 伊藤俊光)